「浦辺。」
「………」
年も明けて冬休み後半、突然うちの店にやってきた同級生に『浦辺。』と体言止めで紹介された…
紹介したのは松山で、隣にいるのはなぜか東邦の日向で。
「お前、マジで覚えてねえだろ。」
「…うっすら覚えてるような気がしなくもなくない。」
って、いきなり現れて随分失礼な奴だな!!日向よ!!!!
「おい松山。なんで日向がここにいるんだ?」
「遊びに来た。」
「? お前ら、そんなに仲良かったか?」
「?!!///なっ 仲良かねえよ!!別にっっ」
いやいや、仲良くない奴が、わざわざ東京から静岡くんだりまで来ねえだろ。
「ゆっ 夕飯で冷奴食うからさっ 浦辺、おすすめの豆腐よろしくっ あと、がんもなっ」
「毎度〜 ちょっと待ってろよ。」
豆腐とがんもを受け取って、松山は「次は一条和菓子店の塩豆大福だ!」と言いながら日向と去って行った。
……なんだったんだ…
「浦辺せんぱーいっ」
二人が帰った直後、ご機嫌な様子で現れたのは新田。
なんだなんだ?今日は珍しく客が多いぞ。
「おう。新田。」
「焼き豆腐買いに来ました〜w 今日はすき焼きっす〜ww」
「豪勢だな。」
「はいっ」
新田は嬉しそうに、にーーーっと笑って見せた。
「今、松山と日向が来たぞ。」
「え?!!日向が?!なんで?!」
「松山んとこに遊びに来たって。」
「ええーーーっ マジかよーーーーっっ」
今度は一転、がっかり顔になる。
相変わらず、くるくると表情が変わる奴。
「一条んちに行くって言ってたぞ。塩豆大福買いに。」
「…ああ。はい。」
「追いかけなくていいのか?」
「そりゃ、追いかけて日向の背中に飛び蹴り食らわしたいですけどぉ〜」
目線を逸らし、唇を尖らせてそう言う。
新田は、松山の事が好きなんだと思う。
恋愛感情かどうかって言ったら、それはよく分かんねーけど。
本人もそこら辺はあんまりハッキリしてないんだろう。ガキだし。
で。
俺は、新田の事が好きなんだと、思う。
それは… 恋愛感情ってやつだ。多分。
「松山さんは、日向の事、好きなんですよ。」
「…え?」
「岬さんが教えてくれました。好きだから、すぐ喧嘩するんだって。」
「………」
「だから、邪魔しちゃ悪いから…」
言いながら、新田は真っ直ぐに続く商店街の道に目をやる。
「…それは、あれだろ。岬が勝手に勘ぐってるだけで…」
「そうかも しれないけど」
「別に付き合ってるわけじゃねえんだろ?」
「……」
新田は突然俺の顔をじっと見つめてきた。
「なに?」
「そーいや、何で浦辺先輩、俺のこと応援してくれるんですか?」
「……え」
何で、だろ?
俺は新田が好きで、新田は松山が好きなら、新田と松山のこと応援するのは確かに違う。
でも、新田が悲しむ顔は見たくないって思うのも確かだ。
って!!!
そんな恥ずいこと本人に言えるかいっっ///
「知らねえよっ なんとなくだろっっ」
「えー なんか俺怒られてるし〜」
はははっ と新田は笑って首をすくめる。
「新田お前っ そんなことより、受験大丈夫なんだろーなぁ?!」
「うぇっ だだだだだっ 大丈夫っ だと 思います よ?」
「んっとに落ちたら承知しねーからな!! ああ、焼き豆腐だったな。ちょっと待ってろ。」
まあ… 俺は俺らしく、気長に頑張るとしよう。うん。
桜のつぼみもだいぶ膨らんで花が咲くのを待つばかりになった3月半ば、
まだ肌寒い日があるとは言え季節はもう春。
俺の通う南葛高校も入学試験の合格発表の日を迎えた。
今日は部活は休み。
俺は家からそう遠くない海浜公園まで自転車で来た。
目的は自主練と、それから…
「浦辺せんぱーい!!」
「おう。」
「合格っ 合格しましたよーーーー!!!!」
自転車を爆走させて、遠くから新田が近づいてくる。
「うわっ あっぶねーなっっ」
「やりました!俺っ 南葛高校 受かりました!!!!」
ギリギリで急ブレーキをかけて自転車が止まった。
頬っぺたを真っ赤にした新田が、息を切らしながら嬉しそうに合格報告をしてくれる。
「約束通り、昼飯、奢ってくださいねっっ」
「わーったよ。何がいいんだ?」
「もちろんっ さわ○かのハンバーグでしょっっ」
「マジかっ 高っっ」
「何でもいいって言ってましたよw」
くそう… 今月の小遣い終わったな…
ふと見れば、心地よい春の海風に長めの髪をなびかせる新田の横顔が目に入った。
空と海の青が、妙に眩しく感じる。
ああ…
俺は……
「新田」
「はい?」
「合格、おめでとう。」
「ありがとうございます!」
「…それから、 な…」
今なら、言えそうな気がする。
今なら。
「俺、お前のこと…」
(完)
浦辺目線でしたw 短いですね;;
いつか書こうと思ってたので、書けて良かったです。
ちなみに、「さわ○かのハンバーグ」とは、静岡にしかないハンバーグチェーン店です。
静岡県民、みんな大好き!げん○つハンバーグ!!
遊びに来た際には是非ともご賞味あれ!!!!
高校生の小遣いで食べるにはだいぶ贅沢ですな…