「俺は女じゃない。」

そう言い放った松山の白い顔が、花火と同じ色に染まる。
同時にドンと音がして、そうしてまた、さっきと同じ薄暗い闇が溶け込んでくる。

・・・俺は一体、何を期待していたというのだろう?



「うっわー。まっつん超似合ってんじゃんっ」
「嬉しくない。全然。」
あからさまに楽しげな反町の声と、あからさまに不機嫌そうな松山の声が
トンテンカン、トンテンカン、と金槌で釘を打つけたたましい音に混じって微かに耳に届いた。
「日向さん、こういうのうまいですよねえ。」
はい、と、隣にしゃがみこんだ若島津が、次の釘を手渡してくる。
「おう。しょっちゅう家のガタきてるとこ直してたからな。」
ある程度本当の話を冗談っぽく言ってみたんだが、若島津には微妙に流された・・・。

学園祭を二日後に控え、今、学園全体はお祭りムード一色になっている。
夏もほぼ終わりを告げた9月半ば。
だが、たかが学園祭とあなどることなかれ。
都内一、二を争うマンモス学校の我が東邦学園の学園祭と言えば、
中、高、大、全ての学生が参加する、年に一度、三日間の一大イベント。
学園内のみならず、近隣住民のみなさま、はたまた商店街まで巻き込んでのお祭りなのである。
さらに最終日の三日目は、ここいらでは一番大きな花火大会とも重なっている。(たぶん計画的に。)
グラウンドで花火見ながらキャンプファイヤーで締めくくるっつーんだから、楽しくないはずはない。

うちのクラスの出し物は「夏祭りの夜店」というコンセプトで、教室の中でいくつか露店をやることになった。
射的、輪投げ、わたがし、カキ氷・・・ と、そんなもんか。
とにかく室内なんで、火を使うもんはNG。
しかしカキ氷って・・・。すでに結構涼しいと思うんだが。

まあ、とにかくそういうわけで、二日後に備え現在急ピッチで露店作りに追われているわけだ。

「見て見て、日向さん!まっつん、すっげー似合ってるでしょー?」
「ああ?」
若島津と二人で釘打ちに夢中になっていた俺は、首だけを後ろにひねって声の主の顔を見上げる。
と、そこには、女物の浴衣を着た反町。と、松山。
「・・・・・笑いたきゃ笑えよ・・・。」
まだ何も言ってないのに、松山は俺を上から睨みつけるように見下ろして言った。
「・・・・・・」
ところが俺はと言えば、思わず声を失ってしまった・・・。
他でもない。
反町が言う通り、似合っていたのだ。とんでもなく。
淡いブルーにアジサイの柄。
 頭には真っ赤な花の飾りをつけて・・・
「な、なんだよ!なんか言えよ!!」
黙っているのが逆にバカにされたと思ったのか、松山はいつもの調子でムキーっと怒ってきた。
「・・・・・っつーか、萎える。」
「はあ?!なんだそりゃ!!」
勃たれてたまるか!!アホーー!!とかなんとか、松山が吼えた。
「・・・・というか、反町も松山も、意外と似合っている。」
冷静に眺めていた若島津が、これまた冷静に答える。
「でしょでしょ?!」
「あれ?若島津も女装組じゃなかったか?」
「あ。健ちゃんはね、ガタイが良すぎてやっぱり却下になったの。」
もともと髪の毛長いからって理由で選ばれただけだし、と、反町が言った。
ずるいずるい、と、また松山がジタバタしながら文句を言う。
「しかし、反町は浴衣と髪飾りが藤の花でコーディネートされてるが、松山のそれは・・・」
確かに。
若島津の言うとおり、アジサイの柄の浴衣に赤い花はないかもしれん。
でも・・・
「だって、まっつんの黒髪に、コレ超似合うんだもん。」
うちのクラスに、こんなにも赤い花の飾りが似合う男は他にいまい。

ついでなので一応説明しておくか・・・。
高等部のクラス別の出し物は人気投票が行われる。
校舎の出入り口に投票BOXが設置してあり、お客さんにどのクラスが良かったか投票してもらうのだ。
それで一位になったからと言って別に何がもらえるわけでもないんだが、
そこら辺は運動会や球技大会で負けたくないのと同じ。
特に男子校なので、そういうところはキッチリ盛り上がる傾向にある。
うちのクラスのように模擬店をやるところもあれば、お化け屋敷だの演劇だのダンスだの、なんだか各種色々。
男版メイドカフェとかもあったな・・・。
主に、お客の結構な割合を占める近くの女子高生のハートをゲットするために
各クラス創意工夫を凝らして出し物を考えているわけだ。
んで、うちのクラスもただの露店をやるだけじゃつまらないんで、
全員浴衣着用、さらに半数は女装、という、反町の意見が採用された。

それから今更言うまでもないと思うが、
誰かしらの陰謀によって、恐ろしいことに俺と若島津と反町、そして松山は、同じクラスなのである・・・。

to be continue・・・  


続きます・・・。どれくらいのモノになるかわかりません。
突然、続きは裏館で!!ってなるかもしれません。(たぶんナイと思うけど・・・笑)
や、最近、裏とかアホなのとか多かったので、ちょっとシリアスめなやつをと思って・・・
うまく書けるといいけどなあ。(遠い目)
一応、前TOP絵の「浴衣の反松」から妄想のお話。
でも反松じゃないですよ!もちろんマツコジですよ〜。


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