松山が転校してきたのは4月のことだった。
ヤツは東邦の誰にもそのことを言っていなかったらしく、「転校生を紹介する。」と、担任の決まりきった台詞で登場した時には
俺も若島津も反町も、驚きのあまり思わず立ち上がってしまった。
まさか、よりによって、あの松山が東邦に来るだなんて。
北海道を、富良野をこよなく愛する男、松山光。
そして何よりも仲間を大事にする男でもある。
その松山が、あっさり東京なんかに来やがった。
例えプロになっても、北海道を出ることがないんじゃないかと思っていたのに。
もしかしたら一生・・・
だが松山は、サッカー選手として、もっと上を目指したいと思ってウチに来た。
・・・愛する地元と仲間を捨ててまで?
いや、そうじゃない。
それだけ信頼しているということだ。たぶん。
そして、信頼されているということだ。
松山光とは、そういう男なのだ。
北海道から離れられない、なんてゆーのは、俺の勝手な思い込みだった。
・・・もしかしたら、願望だったのかもしれない。
そしてこれもまた、俺の勝手な思い込みで、願望、だったのかもしれない。
学園祭前は学校側も大目に見てはくれるんだが、それでも21時が限界。
さくさくっと風呂に入って寮の自室に戻ってみると、ルームメイトの若島津以外に何人かの人影がある。
寮のたまり場と言えば反町の部屋なのに、ココに集っているということは・・・。
「あ、日向さんおかえんなさーい。」
反町がひらひらと手を振るが、全くこちらに顔を向けていない。
他のヤツらも同様だ。
奴らは若島津の勉強机をごっそり囲んで、パソコンの画面に釘付けになっていた。
当の若島津はと言えば、反対側の俺の勉強机の椅子に座ってサッカー雑誌を読んでいる。
「・・・・またか。」
「あ、日向さんおかえりなさい。」
雑誌に夢中だったのか、若島津がようやく俺の顔を見た。
パソコンからは、かなり小さい音にしてはあるが「あん、あん、」という女の声が聞こえてくる。
そう。こいつらは人の部屋でAVを見てやがるのだ。
反町曰く、「健ちゃんのパソコンは画像がキレイ☆」なのだそうで。
部屋にはもちろんテレビはないが、パソコンは使用禁止にはなっていない。
そういうのに疎い、俺みたいな先生が許可しちゃったんだろうな。
こんなもんバレたら、即禁止になるに決まってるんだが。
そのうち女のあえぎ声が激しくなって、男優が「イク、イク」とか言って、どうやらフィニッシュを迎えたらしい。
「・・・・ま、そんなに、でも、なかったよな?」
「女の子の顔が好みじゃなかった。」
「お前の趣味わかんねー。」
口々に感想を述べ出す。
さすがにこの程度は見慣れたもんらしく、思わず前屈みになってしまう輩はいないようだ。
その面々の中に、あいつの姿もあった。
「あ。松山くん勃ってますよーっ」
「なんだよ反町!触んな!!バカ!!」
「小池ー。今夜まっつんが自家発電してても寝たフリしてやってよー。」
「しねーよ!!」
「大丈夫。俺、そういうとこ気が利く男だからさ。」
「ノるな!!小池!!」
はあ・・・。
俺は思わずため息を漏らす。
男子校なんで、こんな会話はかなりしょっちゅうなんだが、どうも俺はそういうノリは苦手だ。
ついでに若島津も。
(・・・・松山も、こっち側だと思ってたんだが・・・。)
「まっつんも辛いよねえ。折角彼女持ちなのに、遠距離になっちゃったんだもんねえ。」
今度はいつ会うのー?と、からかわれながら、松山は他の奴らと共に部屋を後にした。
そう、松山には、彼女もいる。
「これ、置いていくんで。日向さんも良かったら見てみてくださーい。」
反町がパソコンからDVDを取り出して、ケースに入れると俺に手渡した。
俺はそのクダラナイ題名と、動物の耳をつけた女の子の写真をまじまじと眺める。
「・・・・子猫少女 ご主人サマと呼ばせて欲しいのニャン。」
じゃ、おやすみなさーい、と反町も去っていった。
「・・・・若島津、見るか?」
「あんたと二人でですか?冗談じゃありませんよ。」
「同感だな。」
若島津は大きくため息をついて俺からDVDを取り上げると、ひとまず自分の机の引き出しの中に閉まった。
幼馴染というのは案外面倒なモノで・・・。
お互い分かり合っていて空気のような存在ではあるが、こういうことに関してはなんとなく触れ合いたくない。
知って欲しくもないし、知りたいと思わない。
そこら辺は暗黙の了解である。
ある意味、親、兄弟と同じようなポジションなのかもしれん。
だから、現時点では彼女がいないらしき若島津が、どうやって性的処理を行っているのか全く知らない。
若島津も俺がどうしているのか、きっと知らない。
「松山は」
「あ?」
もう寝に入ろうかと思ってベッドに潜り込んでいた俺は、若島津の声に頭を上げた。
「こういうの、苦手なのかと思ってました。」
「・・・・そうなのか?」
俺はわざと若島津の話の先を引き出すような返事をした。
「だって、なんか、潔癖症ってゆーか、結婚するまでキスもしません!みたいな感じがして。」
「・・・・なんだそりゃ。」
「サッカー以外で松山と関わりあうことがなかったんで。なんかそう思い込んでたんですね。
三杉はかしこくて常に紅茶を片手にしているとか、早田はたこやき大好きで納豆がキライとか、そういうのと同じ思い込み・・・」
「それと一緒なのかよ。」
「いや、早田は納豆好きでしたよ?」
「そんなところはツッコんでいない。」
・・・時々若島津がよくわからない・・・。
「まあ、とにかく、俺が思っていたよりも、松山はずっと普通の男子高校生らしいということです。」
若島津はそういうと、再び雑誌に目線を戻した。
思い込んでいたのは若島津だけじゃない。
俺だってそうだ。
いや、思い込んでいたんじゃなくて・・・
そうあってほしいという、願望・・・?
松山は潔癖症で、その手の話は苦手で、キスもまだしたことない・・・・
松山が俺や若島津が思っていたよりもずっと普通の男子高校生らしかったことは何も問題ではない。
問題は、
なんで俺が松山にそうあって欲しいと思っていたか・・・なのか?to be continue・・・
わー。下品だな〜。(笑)
なんかね、こういう男子の会話スキなんですよ♪
サッカー以外の普通(?)の学校の会話もして欲しいなーと思って。
ところで松山くんはすっごい奥手って設定多いですよねえ。
真面目そうだから、そういうイメージがあるんでしょうか?
しかしコレ、表に置いておいていいのかしら・・・
基本的に松山くんには北海道から出てほしくない、と思っています。
ただ設定的に日向さんと同じ学校だと話が広がるというだけで・・・。