*こちらは『想 −おもいー』から1年後のお話です。

「梅雨だぁ…」
「まっつん、まだ梅雨入りしてないよ?」
「え?そーなの?」
机に向かって宿題やってる反町が、窓から外をぼんやり見ている俺に言った。
こんなに雨ばっか降ってるのに…
いや、正確には夕方になると雨が降る、そう、まるでスコールみたいに。
「東京って、熱帯雨林気候?」
「んなわけねーだろっ」
「スコール」
「爆弾低気圧だよ。」
ちょっと賢そうな会話じゃね?と思ったけど、特に意味のない会話に過ぎないのはいつものこと。
風も強くなってきたので窓を閉めた。
ああ、反町が宿題やってるうちに、俺も宿題やらなきゃ教えてもらえないな…
うーん、と大きく伸びをして、俺は反町と背中合わせに置いてある自分の机に向かった。
「ねー。まっつん今月誕生日だよね?」
「うん。」
「去年の誕生日さあ。ひゅーがさんとデートしたじゃん?」
「っ…/// な、なんだよ。それがっ」
「俺、一応まっつんのためにと思ってセッティングしたんだけどさ〜 あれからどうなの?」
「……」
思わず、立ち止まってしまった。
一年も経って、それを今聞きますか?
っつか、こんだけ一緒にいんだから分かるだろうがよ…
「どうもこうも、ねえよ。」
「あ。やっぱり?」
少し悪戯な笑みを浮かべて、反町は言った。
「いや、一年間観察してきたけどさ〜。変わらないんだな〜と思って。」
「変えようがないっつの。」
「もう諦めちゃったの?」
「諦めるとか諦めないとか、そういうんじゃないだろ。」
そう…
俺の日向に対する感情は… 許されるものじゃない。
日向にとっても、世間一般的にも。
俺は…
「まっつん、このままでいいの?」
「このままでいいよ。」
「………」
「このままが、いい。」
反町はじっと俺を見つめて。
それから
「嘘つき」
と、言い放った。
「嘘じゃない。」
「嘘だよ。だってまっつん、日向さんとデートした時、めちゃめちゃ幸せだったでしょ?」
「もういいよ。」
俺は無理矢理会話を終わりにして、椅子に腰を下ろした。
鞄からノートを問題集を出して開く。
「今日25ページからでいいんだよな?反町、もう終わった?」
「…ずるいな。まっつん。」
反町がぼそりと言ったが、俺は聞こえないふりをするしかなかった。



   『嘘だよ。だってまっつん、日向さんとデートした時、めちゃめちゃ幸せだったでしょ?』



「………」
幸せ… だった。
でも、あの日のことは、大切な想い出にするしかない。
反町にもらった、携帯の中の写真も…
俺の心の中にだけ、留めておけばそれで  いい。






それから何日も経たないうちに関東は梅雨入りした。
梅雨らしい雨の日が続くのかと思いきや、今日は晴れて蒸し暑くて…
それでも一応晴れてるっていうのに今日は珍しく急に部活が休みになって、18時前には寮に戻っていた。

「わー。まだあっかる〜いvvv」
反町が外を見ながら嬉しそうに言う。
「ねえねえ、あなた〜。たまには外でお食事でもしましょうよ〜vv」
「主婦かよ。」
ベッドに寝転んで携帯をいじりながら、反町にツッコミを入れる。
「たまの休みくらい、こうやってゴロゴロしてたいだろ。」
「休日のパパさんかよ。」
さっきの俺と同じ口調で返された。
反町はわざとらしく「ちぇっ」と言って、自分のベッドに寝転ぶ。
「まっつん、明日誕生日だね。」
「うん」
「また、俺から素敵なプレゼントしちゃう?」
反町は寝転んだままこちらを向いて言って、それから、にや〜っと笑った。
「もういいってば。」
「まー。俺はさ〜 嫌がるものを無理にどうこうするのは嫌いだから、困るならもうしないけど」
「……しなくていい」
「じゃー、誕生日プレゼント何にしようかな。
 あ。体育祭の時に、それとなく日向さんとのツーショット写真でも撮っちゃうとか?」
って、わざと言ってんなコイツ!!!
完全に揶揄われていると分かって、俺はベッドを降りると反町の上に馬乗りになった。
「そーりーまーちーっっ お前、なんでそう俺を困らせるんだっ」
「きゃーーーっっ まっつんに襲われるぅ〜っっ」
「黙れ!こうしてやる!!」
「ぎゃっ やややや ヤメロ 松山!! ぎゃーーー ははははははははははっっ」
脇から腹にかけて思いっきりくすぐってやった。
「ぎゃははははははっっ ひーーーっ もう む 無理っ 限界っ ひゃははは」
「参ったか」
「ま まま まいり ひははっっ 参りましたっっ」
ふっふっふ。勝ったぜ…
満足げに反町の顔を見下ろしていたら、ふいに人の気配を感じた。
「…何をしてるんだお前らは」
「ひっ 日向!!」
何故か私服姿で、日向はそこに立っていた。
「ひゅーがさーんっ まっつんが俺を襲ってきたよ〜っっ」
「バっ  何言ってんだよ!!」
俺は慌ててベッドから飛び降りる。
反町がまた、悪戯な笑みを浮かべていた。
くそう…
「で?何ですか?」
「せっかく部活休みだし、外に飯食いに行かねーか?」
「あれ?健ちゃんは??」
「知らん。気付いた時にはいなかった。」
おお… 日向の私服姿見るのも久しぶりだな。
春休み以降見たことなかったかも…
やっぱ、背高ぇし、足長ぇし、体格いいし、なんつーか… うん 惚れ直す… なあ///
「あ。俺これからデートなんで〜 日向さん、まっつんと行って来て下さいよ。」
「相変わらず忙しい奴だな。おい、松山」
惚れっ…/// って俺何考えてんだ!!!
そりゃ、日向はカッコイイけどっ ええっ?!///違う違う!カッコイイとか それは何か女子的な発想で
「おい、松山。何をボケっとしてるんだ?」
「え?!あっ  おおお おう。何が?」
いきなり話を振られて、俺は思いっきり慌ててしまった。
「だから。飯を食いに行くぞ。」
「は?誰が?」
「俺と、お前が、だ。っつか、お前、マジで全然聞いてなかったな。」
「え?反町は?」
「だから。デートだと。早く着換えろよ。ジャージと歩くのは嫌だぞ。下で待ってるからな。」
何が何やら分からんうちに、日向は俺の視界から消えていた。
え?え?俺、ええと、着替えて、それで
「まっつん、早くこれに着替えて着替えて。」
反町が見たこともない服を出してきて俺に着せる。
「こないだ買って、まだ着たことないんだけどさ〜 だいたい体格同じくらいだし。
 思い切って、まっつんに貸しちゃうvvv」
「え?!い、いいよ別にっ」
「まっつん、まともな私服あんまりないじゃん。」
「そんなことはっ」
あるけども!!!
「貸してあげるからさ。今年こそ告白するんだよ!!
 流れでそうなっただけだけど、俺からの一日早い誕生日プレゼントってことで!」
いつの間にやらすっかり着替えさせられて、背中をぐいぐい押されて部屋を後にする。
ええと…
とりあえずこれ以上待たせるとキレられそうなので、俺は階段を下りて玄関へと向かった。



「おせぇ」
「ごめん。」
「行くぞ。」
スタスタと歩き出す日向の後ろをついて行く。
「なー。どこ行くの?」
「ちょっと、気になっている店があるんだ。」
「気になってる店?」
日向の横に追いつき、並んで歩く。
「駅の割と近くに新しく出来た所なんだが。通る度に気になって」
「ふうん」
「お前、何でも食えるよな?」
「基本的にあんまり好き嫌いねえよ。」
日向は俺の返事を聞いて、少しだけ微笑んで頷いた。
何か、変な気の使われ方をされてちょっとくすぐったい…

歩き慣れた商店街を抜け、駅の近くまで来た。
大通りを離れ路地に入っていく。
っつか、日向こんな道よく知ってんな…
「ここだ。」
「…ここ?」
立ち止まったのはイタリアの旗が掲げられたレストランの入口らしき前。
階段があって、どうやら地下に店があるらしい。
…いやいや
「ここは、俺たちが行くような店じゃないんじゃ…」
そう、こう…OLさんとかさ、カップルとかさ。
男子高校生2人連れって!!
「俺は気にしない。」
偉そうに日向が言った。
「俺は気にすんの。それにだいたい、ここ高ぇんじゃねーの?」
「そんなことはない。」
指さしたのは店の前に出された看板。
黒板にカラフルなチョークでメニューが書かれている。
「………」
まあ。ディナーのコースで2000円だったら安いけども。
でも俺たちの小遣いで2000円って、まあまあ頑張る方だぜ?
しかもコース料理って!!!それこそ俺たちが食うようなアレじゃないだろ!!
「うー… っつか、お前こそ金あんのかよ。」
「ある。小泉さんに正月に貰ったお年玉に手をつけてないからな。」
「…お年玉…」
あの人、心底日向のことが好きなんだろうなあ。
一体いくら貰ったのか気になるところだけど、聞くのが何か怖いからやめておこう…
「それに、お前明日誕生日だろ?」
「おっ/// おう…」
「だから今日は俺の奢りだ。まかせとけ。」
「は?!!」
日向はどんどんと階段を降りて行ってしまった。
誕生日… だけど… その…
去年は映画デートで、今年はお食事デートで。

……… あああ!!!神様ありがとう!!!!

「早く来い。」
「わ、悪ぃっ」
慌てて俺は階段を降りて行った。


(続く)



一話完結の予定だったのに!!!
スミマセン…

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