「まっつやまー」
「おう。」
「今空き時間?」
「うん。」
携帯をいじっていた松山の背後に現れたのは、ふちなしメガネがやたらお似合いの片山だった。
ベンチに座る松山の横に腰を下ろす。
長い夏休みもほとんど部活に明け暮れて、部活のない時はバイトに明け暮れて、
そんなことをしているうちにあっという間に終わってしまった。
9月に入っても日差しはまだまだ夏で、青々とした芝生が目に眩しい。
「あー。あっちぃなあ…」
Tシャツをパタパタしながら空を仰ぎ見る片山。
松山はその手にある分厚いファイルの存在に気づく。
「何それ。」
「あー。これな。今度のU-21強化合宿の資料。小泉さんから呼び出しかかってさー。」
もちろんお前の名前も入ってるからな、とニヤリとして言う。
「片山ってこのまま代表のコーチになるのか?」
「いや、俺には弁護士とういう壮大な夢があるんですが…」
いつの間にこんなことに…とわざとらしく頭を抱える。
「いいじゃん。三杉みてーに医者目指しながらコーチやれば。」
「俺はアイツと違ってそんなに器用じゃないんで。」
またまたご謙遜を、と松山は片山の腕を肘でグリグリしながら言った。

東邦学園大学に無事合格し、入学してから早5ヶ月。
今では片山ともすっかり打ち解けた。
学部は違えど部活は一緒。(入る気なかったのにまたサッカー部に強制入部させられた片山。)
それどころか住んでるのも同じマンションときたらほとんど寝食共にしている状態で。
今では『三羽ガラス』とひとくくりされている。

「それより、まだ時間あるんだったらさ。お兄さんと学食でお茶しない?」
おいてけぼり同士vと、メガネを外して松山の肩に手をまわすと、ほぼ同時に脳天に衝撃が走った。
「いってーーーっっ」
「ちょーっと片山さん。うちの光君に何してくれてんのかな?」
振りむけばそこにいたのは、三羽ガラスのもう一羽、反町である。
「お前、その参考書、縦にして叩いただろ…」
「え?縦だった?」
やだーんvそり子間違えちゃったわんvvとブリっ子(古…)してみる反町。
と、突然目がマジになって
「写メとって大地君に送ってやろうか。」
「じょ、冗談だろーが!っつか、お前いつの間に大地とメアド交換してんだよ!!」
珍しく本気で焦る片山に、隣にいた松山は大爆笑している。
「日向さんがいない間は俺がまっつんを悪い虫から守ることになってるから。ねvまっつんvv」
今度は反町がベンチの後ろから松山をぎゅーっと抱きしめる。
「ぎゃ!苦しい…反町… っつか暑ぃっっ」
「…あれ?そーいや帰ってくんの今日じゃねえか?」
片山が言ったその時
遠くからこちらに近づいてくる、見覚えのある人物。
その風貌に、道行く学生がみな振り返る。
「…あいつはどこで放浪してきたんだ」
「ホント。ヤバいよね… なんか裸の大将みたい。」
ぶふふふ…と反町と片山が顔を見合わせて笑った。
「ほら。行ってこいよ。」
片山が松山を立ちあがらせ、背中を押す。
「俺たち見て見ぬフリしておくからさ〜」
「って、結局見てんじゃねえか…」
二人のくだらない、けど温かいやり取りを聞きながら、松山は早足で近づいていく。




反町 一樹 : 東邦学園大学理工学部に進学。
          大学サッカー部に所属しながら代表にも召集されている。
          自称松山のお目付け役。

若島津 健 : 高校卒業後、横浜FCに入団。活躍中。
          暇さえあれば反町宅に現れる。

三杉 淳  : 海南医大に進学。医者を目指しながらサッカーを続ける。
          時間を作っては片山宅に現れる。

岬 太郎  : 高校卒業後、ジュビロ磐田に入団。活躍中。
          時々松山宅に現れる。

片山 左京 : 東邦学園大学法学部に進学。弁護士を目指す。
          が、なぜかサッカー部のコーチもこなすはめになっている。

遥 大地  : アメリカのM工科大学に進学。研究に没頭中。
          片山と遠距離恋愛中。

北見 孝平 : 地元京都のR大学経済学部に進学。長年交際していた彼女と婚約。
          彼女の家の家業である呉服屋を継ぐ予定。





「日向」
「…おう」
その格好ときたら、年季の入った白いTシャツを肩まで捲りあげて
こちらも年季の入ったカーゴパンツにサンダルそして大きなリュックサック。
ホント、一体どこを放浪してきたのやら…と思わず苦笑いしてしまう。
一層日に焼けた顔も腕も、眩しいほどに逞しい。
しばらく会わなかった間に、悔しいけど、きっと随分成長してきたに違いない。





松山 光    : 東邦学園大学国際関係学部に進学。北海道より上京。
            反町と同じく大学サッカー部で活躍しながら日本代表にも召集されている。

日向 小次郎 : 東邦学園大学国際関係学部に進学。現在休学中。
            イタリアの某クラブチームにサッカー留学。




「おかえり」

「…ただいま」




長い長い旅の終着駅は、きっと、まだ、ずっと先。


(完)




うわー。ついに終わった…
「青春」に(完)をつける日が来るとは…
皆様、長い間本当にありがとうございました!!
休載中の間も「楽しみにしてます!」ってメール頂いたりして、
こんな自己満足小説なのに応援して頂いて…(涙)
おかげさまでついに完結することができました☆ありがとうございます!!

本編は終わりましたが、2つほど書きたいエピソードがあるので、もうしばらくお付き合いくださいませv


第二十三話   top