さっきのキスはなんだったんだろう・・・・?
とさえ思うくらいに、新田は何事もなかったように振舞っている。
なんか、俺一人どぎまぎしちゃって慌てふためいちゃって・・・・
っつか、すっげー慣れてなかったか?新田・・・
路線バスに乗って20分弱。
バス停から歩いて数分で新田の家に到着した。
ものすごく勝手なイメージで新田んちは新興住宅街の今時の家か分譲マンションかと思っていたんだけど、
どちらかと言えば古い感じの一軒家だった。
近くには昔ながらの商店街があって、懐かしい雰囲気が漂う。
「ただいま〜!」
「瞬!!あんた何で一回うちに帰って来ないの!!」
おかえりより先に母親の怒号が飛んでくるあたり、うちにそっくり・・・
「母ちゃん、先輩のまつや」
「あらーっ 松山君。いつも瞬がお世話になってます。どうぞどうぞ。」
新田のお母さんは新田にそっくりのかわいらしい感じの人だった。
・・・いや、新田がお母さんにそっくりなのか。
新田には上に大学生のお姉さんが二人いて、今は夏休みで二人とも帰省中だった。
俺にも姉ちゃんはいるけど、怒涛の質問攻めにはさすがに参った・・・
新田は俺たちの前ではおしゃべりなのに、家ではあんまり自分のこととか話さないみたいで、
しかも姉二人は久しぶりに会ったかわいい弟の話を聞きたくて聞きたくて仕方ないらしくて。
なぜだか俺は、新田の顔色を窺いながら、お姉さまたちに合宿の話なんかをするハメになった・・・
「なんかすみません。姉ちゃんたち、超うるさかったですよね。」
大きなため息をつきながら、新田は長めの髪をタオルで拭いている。
俺は夕食の後先にお風呂をいただいて、「瞬がお風呂に入っているうちにvv」とばかりに、
またもやお姉さまたちの餌食になっていたのだ。
その後、状況を察知した新田が慌てて風呂からあがってきて、自室に連れて来てくれた。
「いや、俺は別にいいんだけど、なんか新田のことどこまで喋っていいのかわからないっつか・・・」
「あんまり話したくないんですよ。うるさいから。」
「けどお前、ほんっとにかわいがられてるのな。」
笑いながらそう言うと、少々怒ったような、照れたような複雑な表情をした。
なんだかそれが妙にかわいくて、俺は思わず新田の頭をぐりぐり撫でてしまった。
新田の部屋はいかにもサッカー少年といった感じで。
海外のプレーヤーのポスターが張ってあったり、サッカーがらみの賞状やトロフィーが飾ってあったり。
ちなみに本棚は半分マンガで半分はSF小説。
いかにも新田らしいな・・・なんて思ってしまう。
ベッドの下に客用の布団を敷いてくれて、俺はそこに寝ることになった。
「本当なら客間の和室に寝てもらうんですけど、姉ちゃんたちが使ってるんで。」
明かりを消しながら新田が言った。
俺はごろりと布団に横になる。
「そんなん気にすんなよ。俺、こっちの方がたぶん落ち着くし。」
「・・・・俺は、落ち着かない・・・んすけど・・・」
「え?」
ベッドの脇に腰を下ろしたまま、新田は俺を見下ろしていた。
短パンからのぞく丸い膝が目に入った。
小さな明かりだけになった薄暗い部屋。
俺は急にさっきの濃厚なキスを思い出してしまって目線を逸らすと、夏用の薄い布団の端を掴んだ。
・・・もう、聞くまでもない。
新田はそういう意味で俺のことが好きで、俺と付き合ってると思っているんだ。
そうでなきゃ、あんなこと・・・
「迷惑、でしたか?」
「・・・・え・・・」
突然の新田の言葉に、俺は心臓を掴まれたような気がした。
まさかそんなこと、言われると思っていなかったから。
「だって、松山さん、ホントは俺のこと、ただのかわいい後輩っくらいにしか思ってないんでしょ?」
「・・・・・・」
俺はゆっくりと身体を起こすと新田の顔を見た。
半分泣きそうな、すごく、切ない、表情・・・
「松山さんの優しさは、すげー残酷っす。」
「・・・・・・ごめん。俺、」
「でも、俺も、わかっててキスしたから、卑怯っすよね。」
「新田・・・」
「今日でこんな勘違いした幸せも終わりなのかなって思って。その前に思い出残しておきたかったんです。」
無理やり作った笑顔は、すぐにでも泣き顔に変わりそうで・・・
本当に卑怯なのは、俺の方なのに。
「違うんだ、新田・・・」
「松山、さん?」
「俺、はっきりさせるのが怖かったんだ。
新田の気持ちをちゃんと受け入れる自信もないのに、そのくせ嫌われたくなくて・・・」
「そんなっ 俺、松山さんのこと嫌いになったりなんか絶対にしません!」
「・・・・うん・・・ そうだよな。新田は、そういう奴だよな・・・」
「松山さん・・・?」
俺は新田の肩を掴み引き寄せると触れるだけのキスをした。
それからぎゅうっと抱きしめる。
「っ・・・///ま、松山さ」
「・・・・もう、ちょっと、ゆっくりでも、いいか?」
「え?」
「俺、ちゃんと追いつくから・・・」
「は、はい・・・」
もっともっと強く抱きしめ返されて、俺たちはもう一度キスをした。
ゆっくりとか自分で言っておきながら、今日一日で何回キスしてんだ・・・俺・・・///
そしてこれまでの小さな積み重ねはあったとは言え、
結局のところ新田のキス1つで心を決めたみたいで、なんか、俺って・・・俺って・・・
違うっ 別に新田のキスが上手かったからとかそういうんじゃないんだっっ 決して!!
もそもそと布団を頭からかぶって頭の中で言い訳してたら、上から新田の声がした。
「あの・・・松山さん。」
「うん?」
「次、こうやって二人きりになる機会あったら、もうちょっと進んでもいいですか?」
「・・・・・・え、う、んと、進むって?」
「俺にすべて任せてくれればいいっす!」
やけに元気に嬉しそうにそう言うと、新田は壁の方を向いてしまった。
・・・・なんか、また、振り出しに戻ってないか・・・?
心の中で若干の不安を覚えながらも、くすぐったいような妙な気持ち・・・
かわいい、年下のヒト。
(完)
なんじゃこりゃーーーっ?!!(笑)
松山くんてば、新田のキステクにやられただけでは・・・?
きっとずっと、二人はこんな風にすれ違いながら(酷)
愛を深めていくに違いありません。
年下攻め、ブラボーっっ