帰国した若林君に招待されたのは、僕、岬太郎をはじめ、南葛SC時代の友達+松山。
豪華な食事の後、若林家のドでかいスクリーンを使ってのゲームにみんな夢中になっちゃって、
ゲームにさして興味のない僕はベランダに出て星を眺めていた。
そしたら若林君が、「風邪ひくぞ」なんて言いながら上着を持ってきてくれて。

「ここ、静かでいいよね。」
「まあな。丘の上に一軒だけだからな。」
「…若林君、なんかいい事あったの?」
「え?」
「だって、楽しそうだから。」
「そりゃ、久しぶりにみんなに会えて嬉しいからだろ。」
って、そんなありきたりな答えを返してきたので、訝しげな視線を送ってやった。
「…なんだよ、岬」
「フレンチレストラン行ったんだって?」
「?!/// おっ  な、なんでそれをっ///」
「井沢に聞いたに決まってるでしょ。」
柄にもなく、若林君は顔を真っ赤にして俯いた。
「…他の奴らも、知ってるのか?」
「滝と来生くらいは知ってるかもね。」
くそう、口止めしておくんだった…と若林君はため息交じりに言う。
なんだかなあ… ホント、すっごい今更なんだけど。
「いいじゃん。味方は多い方がいいでしょ?」
「…味方、してくれるのか?」
「してあげてもいいよ。」
にっこりと微笑むと、若林君はまた顔を赤くして。
「岬、そういう顔は、誰の前でもしていいってもんじゃない。」
「え?」
「…まあ。いい。」
俺の気持ちは揺るがない… とかブツブツ言って、若林君は自分に言い聞かせるように数回頷く。
なんつーか、
わっかりやすぅ〜い。
「翼は」
「え?」
「翼。元気か?」
「…さあ。元気なんじゃないのかな?昨日のメールの感じだと一応。」
「一応ってなんだ…」
「だって」
…だって、翼君はいつだって「僕は元気だよ!」って返してくる。
多分、元気じゃない時だって。
「会って顔見た訳じゃないから。分からないよ。」
「でも、岬にはちゃんとメール返すんだな。」
「…え」
「俺も結構マメにメールしてるんだが、10回に1回くらいしか返ってこない。」
「……」
もう一度、空を見上げる。
ブラジルはまだ真昼間なのかな…
肩に重みを感じたと思ったら、若林君の腕だった。
「寂しいなら、俺もいるぞ。」
「…後ろに井沢いるよ?」
「えええ?!!!」
焦って振り返った若林君だったけど
部屋の中のみんなは、もちろんスクリーンに映ったゲームしか見ていない。
「うっそー」
「おおおおおっ やめろ!心臓に悪い!!!
 だいたい、今のはあれだぞ!変な意味じゃないぞ!!友達としてだなっ」
「変な意味じゃなかった割には慌ててたよね?」
「そっ そんなことはっっ 」
あー。若林君って、からかい甲斐があるな〜。
…翼君とは、
翼君とは、大違いだ。


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「ブラジルに行くんだ。」
中学3年の時、進路希望の提出を終えた直後に翼君が言った。
その話は前々から聞いていたけど、正直僕は、あまり本気にしていなくて。
だって、そんな簡単に行けるような所じゃないし、翼君の両親だって許すとは思えない。
たとえ、ロベルトがいたとしても。
「ふーん。」
「岬君は南葛高校?」
「まあ。父さんがまたむちゃくちゃ言い出さない限りは。」
あとは受験に合格しなくちゃね、と言うと、翼君は「岬君なら大丈夫だよ!」なんて気楽に言う。
「じゃあ、もし岬君のお父さんがどこか遠くへ行くって言い出したらさ、岬君、僕の家に住んだらいいよ!」
「…翼君の家に?」
「うん!俺の部屋使って!岬君が使ってくれるなら大歓迎だよ!!」
「…わかった。じゃ、そーさせてもらおうかな。」
翼君は、屈託のない笑顔を見せる。
だから、ブラジルなんて遠い所、行かせてもらえるわけないのに。
「ブラジル、地球の裏側だよ。」
「? そーだね。」
「翼君がそんな遠くに行っちゃったら、僕、別の人を好きになっちゃうかもしれないよ?」
「…そーなの?」
「……」
心から悲しい顔で、じっと僕の顔を見つめる。
「翼君だって、僕の事、忘れちゃうかもしれない。」
「そんなわけないよ!!」
「……」
「俺は岬君以外の誰かを好きになったりしないよ。絶対に。」
その揺るがない自信はどこからくるんだろう?
僕は…
僕は不安でたまらないのに。
「岬君… 泣いてるの?」
ブラジルなんて遠い所、行かせてもらえるわけがない。
それは… 僕のただの願望。
本当は分かってるんだ。
翼君は行ってしまう僕を置いて。
その揺るがない自信を胸に。
自分自身を試すために鍛えるために強くなるために。
僕を置いて、行ってしまう…
「岬君…」


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「岬!若林!ちょっとちょっと!!」
松山が慌てた様子でベランダに出てきて、若林君の腕を掴む。
「なんだよ松山」
引っ張られる若林君に続いて、僕も部屋の中に戻った。
「…あ」
視界に飛び込んできたのは…
「翼… 君」
さっきまでゲームの画面だったスクリーンはテレビの地上波に切りかえられていて、
僕もよく観ているサッカー番組が大画面で映し出されている。
画面の右上には『特集!未来のエース 大空翼inブラジル』の文字。
「翼、すっげー日焼けしてんな!!」
「はは。日向みてー」
「背、伸びたよな?」
「うわ!ボールさばき、さらに上手くなってんぞ!!」
みんなが口々に言う。
画面はボールを操る姿から、インタビューに切り替わった。
『どうですか?ブラジルでの生活は。』
『とても充実しています!毎日厳しい練習が続きますが楽しいです。』
『言葉の方はどうですか?』
『日常会話程度はなんとか…』
変わらない、はきはきとした口調でインタビューに答える翼君。
なんだか、距離だけじゃなくて、存在さえも手の届かない所に行ってしまったような気がして…
僕は、胸が苦しくなった。
『では最後に、日本のファンの皆様にメッセージを』
『あ。その前に、一言いいですか?』
『はい?』
インタビューも終わろうとした頃、突然翼君はそう言って、インタビュアーからマイクを奪った。
『岬くーん!見てる?僕、元気だからね!!!』

…… え?

…………ええええ?!!!

そこにいた全員が、僕の方を一斉に見た。
『まだしばらく帰らないけど、次会うの楽しみにしてるよ!』
ありがとうございました!と爽やかに言って、マイクを返す。
『あのー。岬君って、南葛の岬君?』
『はい!』
『ゴールデンコンビの相方ですね?』
『そうです!なんか、すごく心配されてたんで!』
『そうなんですか?じゃあ、これできっと、岬君も安心してくれましたね。』
『はい!!』
わははは… って、笑って、和やかな感じで終わりCMに切り替わった。
…ええと…
………ううーんと…
「すげーな岬!っつか、翼、おもしろすぎるって!!」
来生が大笑いしながら言った。
「公共の電波で個人的なメッセージを送るなっつーの。」
相変わらずド天然だな… と滝も笑う。
っていうか… ていうか!!!

僕、すっごい恥ずかしいよ!!!翼君!!!//////

「良かったな。岬。」
隣にいた若林君が言った。
「翼君てば、本当に、バカだよね。」
「…声が震えてるぞ。」
「……っ 」
涙が零れそうになって、僕は慌てて顔を背ける。
ずるいよ、翼君…
「お前を振りまわせるのは翼だけだな。悔しいが。」
若林君がぽんぽん、と頭を撫でてくれた。

ずるいよ、翼君。
何も気付いていないようで、全部分かってる。
一人もがいて、から回りしている僕を、一瞬で救い出してしまう。
(分かった。大人しく待ってるよ。)
僕はこっそり心の中で呟いた。


若林君は車で送ってくれると言ったけど、大した距離でもないので松山と歩いて帰る事にした。
松山は星空を見上げながら、明日もいい天気になりそうだ〜 なんて嬉しそうに呟く。
「翼、元気そうで良かったな。」
空を見上げたまま、松山が言った。
「うん。」
「ブラジルは今何時かな〜」
「さあ。まだ明るいんじゃない?」
「じゃあ、翼はきっとボール蹴ってんだろな。」
「…そうだね。」
翼君もそうだけど、松山もなんというか、自然体だ。
……天然とも言うけど。
「僕、松山のこと好きだよ。」
「? なんだよ、急に。俺だって岬のこと大好きだぜ?」
翼君に対するそれとは違う意味で。
きっと、松山の僕に対する好意も、僕が松山を想う気持ちと同じだ。
だから、僕は翼君に振り回されてしまうけど、松山に振り回されることは多分ない。
「松山が本当に好きなのは小次郎でしょ?」
「はあ?!何言ってんだよ!!あんな奴大っ嫌いだ!!!」
「はは。またまた〜」
「またまた〜 じゃねえ!!」
プンスカ怒る松山を見て満足w
松山も、素直になればいいのにね。


(完)


GC+若林でした☆
特に終わりもなく、だらだら続いていくと思われます。


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