「よう。」
軽く手を上げ、俺に近づいてきた松山は、女装ではないいつもの松山で・・・。
「おう。」
「何してんだ?こんな所で。」
「いや、まあ、ちょっと。」

・・・・何故かほっとした。
そうだ。俺がさっき「好きな人」と言ったのは、この松山じゃない。
あくまでも、夢の中に出てきた「女装した浴衣姿の松山」なのだ。
きっと、そうだ。
それは俺の夢の産物であって、現実にいる松山ではないのだ。
松山に似ているだけの女の子だったのかもしれない。
・・・・そうに違いない・・・。

とにかく、くだらない思考を一人歩きさせている場合ではない。

「お前こそ、何してんだ?」
「どうしても食いたいアイスがあってさあ。コンビニまで行ってきたんだけど、売ってなかったんだよなあ。」
置いとけよな、白くま・・・と、松山はぶつぶつ文句を言った。

ドン・・・

音と共に歓声が沸き起こり、後ろを振り返ると、暗闇の中色鮮やかな花火がそれ程遠くはないところに見えた。

「あ、やっべ。もう始まりやがった!」
松山は慌てて走り出す。
と、思ったら、突然ピタっと足を止め、俺の方に振り向いた。
そしていきなり人差し指で俺をビシーっと指して、
「お前、ついてくんな。」
「・・・・・・・・・・」
・・・・・なんだとぅ?
別に最初っからついてくつもりなんかなかったが、そんな言われ方されると無性に腹が立つじゃねえかよ・・・。
「・・・何でだよ。」
「ついてくんなったら、ついてくんな。」
「女と二人でヨロシク見るつもりか?」
「ざけんな!そんなんじゃねえよ!!」
・・・そうだよな。こいつ彼女いるもんな。浮気するようなタイプにはとても見えんし。
じゃあ、一体なんだってんだ?余計気になる。
「ま、まさか・・・」
「何だよ。」
「男に走ったか・・・?」
ゴキっ!!!!
鈍い音が頭に響いた。
「ってーな!!何しやがる!!!」
「バカか!てめーは!!いっぺん死ね!!」
「じゃあ何だってんだよ!気になるような言い方する方が悪ぃだろうがよっ!!」
ぐっ、と松山の口がへの字になった。
「・・・・そ、それは、そうかもしんねーけど・・・」
「そうかもじゃなくて、そうなんだよ。」
しかも殴られたし・・・と、追い討ちをかけるように頭をさすって見せる。
「・・・・わかったよ。誰にも言わない約束だぞ。」
「? ああ。」
なんのことやらよくわからんが、人並みを縫うように歩いていく松山の後ろについて俺も歩き出す。
ってか、マジでなんなんだ?
若島津放ったままなんだけどな。(まあ、いいか。)

花火の音が鳴り響く中、中庭を抜け、南校舎の裏の出入り口に辿り着いた。
「校舎の鍵、もう閉まってるぞ?」
そんな俺の言葉に、にやり、と得意げな表情で俺を見る松山。
「ここだけ壊れてんだ。」
一番隅の引き戸をガタガタと上下に揺らすと、どういうわけか戸が開いた。
「な。」
「な。って、お前な・・・」
こんなところ見られたら、どん叱られるぞ・・・。
叱られるだけならまだしも、セ●ムとかに通報されてガードマンの大群でもやってきたらどうするつもりだ。
っつーか、こんなに簡単に侵入されるうちの学校のセキュリティは大丈夫なのか?!

俺の心配など他所に、松山は校舎の中に入って行った。
仕方なく俺も後に続く。
昼間の騒がしさとは打って変わって、人っ子一人いない校舎はやたら静かだった。
僅かに外の喧騒と花火の音が聞こえてくる。
「なあ。オバケとか出そうじゃねえ?」
階段を昇る松山が、やけに嬉しそうに言った。
「・・・出そうじゃなくて、出るぞ?本当に」
「・・・・え?」
自分から言い出したくせに、松山は真剣な顔で俺を見た。
「ま、まじで?!どこに?!」
からかいがいのある奴・・・。
「どこだったかなあ。」
「ど、ど、どこだよ!教えろ!!」
「忘れちまったな。」
「日向あ」

その後も随分しつこく聞かれたが(さすがねばりの松山だぜ・・・)面白いので知らないフリをし続けてみた。

そのうちに6階分の階段を昇りきってしまい、屋上に通じる扉がある踊り場まで辿り着いてしまった。
よくマンガやドラマなんかじゃ屋上で昼飯食ったり授業サボったりしている光景が描かれているが、
実際に出入り自由になっている学校なんてほとんどないだろう。
まあ、安全面から考えて、屋上に鍵をかけておくのは当たり前だよな。
当然、うちの学校ももれなくそうなわけで。

「まさか、ここの扉の鍵も壊れてるとか言うんじゃねえだろうな。」
「扉じゃない。」
こっちだ、と、松山が指さしたのは小窓。
げ・・・
窓枠を掴んだかと思うと、鍵をはずすどころか、なんと窓枠ごとガコンと外しやがった。
「な。」
いやいやいやいや。だから。な、じゃねーよ!!!!
学校中の扉や窓をガタガタやって、外れるとこ探しまくってのか?!おめーはよ!!
ツッコむどころか、激しく脱力した俺のことなど全く気にせず、松山は軽々とよじ登って窓から外に出た。
だからマイペースのB型なんか大ッキライなんだよ!!!
「日向ー!早く来いよー!!」
「・・・・」
まあ、ここまで来てしまったのだ。
 俺も、よっこらしょ、と、外された窓によじ登った。

to be continue・・・


困ったな。終わらない・・・。
ええと、さっさと書きます。(反省。)

第五話   小説top   第七話