季節外れの花火は、暗闇と俺たちを断続的に照らし続けていた。
俺は、松山が好きなのだ。
俺は、松山光を、恋愛対象として好きなのだ。
俺は・・・
松山は怒られた子犬のような目で、俺をじっと見ていた。
それから、何とも言えない微妙なこの緊張感に耐えられなくなったのか、僅かに目線を下に逸らした。
“好きだ”とか“愛してる”とか、そんな言葉を口にしたところで何一つ意味を持たないような気がした。
きっとそんな言葉では松山に伝わらない。
・・・・いや・・・、伝わったところでどうなると言うのだろう?
仲間、友情、ライバル、サッカー・・・・ 松山・・・
これまで作り上げてきた失いたくないモノと、目の前にある手に入れたいモノ。
「・・・ひゅうが、」
「・・・・・」
松山が小さな声で俺の名前を呼んだ。
「・・・お前、今、何考えてる?」
「・・・色々なことを、ぐちゃぐちゃ考えてる。」
「・・・・・そうか・・・」
松山は再び俺に目線を合わせ、小さく微笑んだ。
「俺、たぶん、お前と同じこと考えてると思う。」
そうして松山は、ゆっくりと目を閉じたのだった。
俺と、同じことだと・・・?
そんなこと、あるはずがない・・・。
奴の寄りかかるフェンスを掴み、唇を重ねる。
柔らかく重ねた唇を、松山が強く押し付けてきた。
松山の整った歯列を舌で確認しながら、笑った時に見える健康的な白い歯を思い浮かべる。
そのまま口内に挿し入れると、松山の身体がぴくん、と震えた。
舌を絡めとり、よりいっそう深く口づける・・・
花火の音が、さっきよりもずっと遠く、ぼんやりと聞こえるような気がする。
夢の中にいるような、自分達だけが現実から切り取られてしまったような、不思議な感覚。
松山の腕が、俺の背中に回された。
答えるように、フェンスを掴んでいた指を、奴のうなじに持っていく・・・。
どれくらいの間、こうしていたのだろう。
長かったような、短かったような・・・
チュ、チュ・・・と水音を立て、名残惜しむように唇を離す。
松山は、はあ、と熱く湿っぽいため息をもらした。
それからそのまま、ずるずると座り込んでしまった。
「・・・大丈夫か?」
「・・・・・・」
ほてった顔に潤んだ瞳。
口の端にこぼれた唾液を手の甲で拭いながら、松山は口を開いた。
「・・・お前のキスって、いつもこんなんなのかよ・・・」
・・・・こんなんて、どんなんだよ・・・。
その言葉にこめられた意味を手繰り寄せようとするが、その前にまた奴が言葉を続けた。
「ファーストキスの相手が日向だなんて、思いもよらなかった。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?!
「・・・な、なんだよ・・・」
「初めて、なのか?」
「そーだよ。悪ぃか!」
ふくれっ面でそっぽを向く松山。
「どうせてめぇは初めてじゃないんだろ。すっげー慣れてるみてーだったし。」
「いや、お前、だって、彼女」
「ああ、藤沢のことだろ。別に彼女ってわけじゃねえよ。みんなが勝手に言ってるだけで。」
な、なんだとぅ?!
「違うって言ってんのに、勝手に盛り上がりやがって。もう否定すんのもめんどうで・・・」
「・・・・・・・」
なんだかわからんが、妙に気が抜けてしまった・・・。
ドンドン・・・ドン・・・
「あ、最後の打ち上げだ・・・」
立ち上がった松山と、しばらく無言のまま花火を見続けた。
夜空を彩る大輪の華々。
これが終われば夏も終わり。
秋が来て、すぐに冬になる。
夏の名残りの最後の花火・・・
「松山・・・」
「うん?」
これから俺たちはどうするんだろう?
「・・・日向?」
・・・まあ、たぶん、なるようになるんだろう。
俺はきっと、失いたくないモノは失わず、手に入れたいモノは手に入れたのだ。
そう思うことにしよう。
「駅前のコンビニまでチャリで行こうぜ。あそこなら白くま売ってる。」
松山の手を握ってそう言ったら、ガキみたいな笑い顔が返ってきた。
the end
ようやく完結、です。
長々とありがとうございました!!!
本当は最後に、後日のお話を入れるつもりだったのですが
まあ、なんかいい感じで終わったような気がするので、終わっちゃいます。
蛇足ですが、気になる方はどうぞ。
→後日談
みなさまに少しでもハッピー気分を味わって頂けましたなら光栄です。