「…最近の泥棒ってすげーんだな。」
ぼそっと松山がどアホなことを言いやがったので
「んなわきゃねーだろ。」
と、普通にツッコミを入れてしまった。
「んじゃ、部屋間違ってるとか?」
言いながら松山は玄関を出ていったが、即行
「合ってた。」
って戻ってくるし。
俺は必死に思考を巡らせたが、たまたま俺の部屋にやってきた宇宙人が地球人の研究資料のために
うちの家具やらなんやら一式をUFOにテレポートさせたんじゃないか… と、
どーーーーー考えても松山の『最近の泥棒』発言以下なことしか思いつかんかった…
「どーする日向。とりあえず、警察電話する?」
それか、NASA?って、お前も同じこと考えたのか?!松山?!!
「NASAの番号なんか知らん。」
「110番なら分かるだろ?」
「110番された方も、結局途方に暮れるんじゃないだろうか…」
すっかり現実逃避して、大切な用事も忘れて松山とくだらないやりとりをしていると

「すみません!!!! ああああーーーっ ま、ま、間に合わなかったあああああ!!!!」

飛び込んできたのは、服装も髪型も若干乱れた…とても珍しい姿の里中さんで。
「さ、里中 さん?  大丈夫っすか??」
「あっ は、はい。すすすす、すみません。失礼しましたっ」
呼吸を整えながら、里中さんは服装の乱れを直した。
「エレベーターがちょうどいってしまったところでしたので… 階段を駆け上がってきたらこんなことに」
「階段 って… ここ10階ですよ?」
「はい」
「そりゃ、お疲れさんでした…」
「ええ。もう」
里中さんはもう一度「失礼しました」と言って、ハンカチを取り出して額の汗を拭った。
「実は私と業者との連絡ミスで… 明日の予定が今日に変更されておりまして。
 せっかくの小泉先生のサプライズ企画をおじゃんにしてしまいました。」
「…なんの ことだろう?」
っつか、今でも十分サプライズですが??
「とりあえず、車に乗ってください。本来お連れすべきだった場所に、お連れしますので。」
「え ああ、はい。」
「松山さんも」
ぽかんと俺と里中さんのやりとりを見ていた松山は、急に話を振られて驚いた様子だった。
「え?!俺も?」
「ええ。ちょうど良かったです。ご一緒して下さっていて。」
何が何やら… 俺たちは事の真相を知るべく、里中さんの後ろをくっついて行く。
「ところで… こちらに連れてきてしまったことは小泉先生には内緒にして頂けますか?」
「あ、はい。いいです けど。何で??」
「業者の方が悪いとは言え、私のミスでもありますから… 出来れば。」
「わかりました。」
完璧だと思う人でも、こういうことってあるんだなあ。
代表で言えば三杉がミスったみたいなもんだろう。
普段完璧な人間はほんの小さなミスでも、それが自分のせいでなかったとしても、
ものすごく気にするのだろうと思うと里中さんも三杉も窮屈な人生送ってんだな、と思う。
…ま、どーでもいいが。



車は街中から少し外れた場所にあるオフィスビルのような建物の地下に入って行った。
車から降りてエレベーターに乗り込み、里中さんが目的階のボタンを押す。
一体どこに向かっているんだか…
何度か聞こうかと思ったが、『サプライズ企画』と言われた手前、やはり聞くべきではないだろう。

エレベーターが到着したのは11階。
外から見ればオフィスビルにしか見えなかったが、どうやらマンションのようだ。
「どうぞ。」
里中さんが鍵を開け、その部屋に入ると…
「?!!」
玄関には、見慣れた靴… これは…
「俺の」
「すげー!広い!!」
いつの間にやら靴を脱いで、さっさと先にあがりこんだ松山の声が奥から聞こえてきた。
慌てて靴を脱いで松山の後を追う。
そこには…
「なーんだ。やっぱり引っ越しだったんじゃねーかっっ」
「っ…」

懐かしい  楽園が  あった
リビングにあったソファに座って 笑う 松山
俺が 望んだ 楽園…

「これ は…」
「はあいvvvびっくりした?日向君。」
「え?!」
「どう?いい部屋でしょ?気に入った?」
「は?!!え?!!」
白いスーツを着こなし、いつも通りキビキビとした歩き方で近づいてきたのは小泉さんで。
「こここ、小泉さん?!」
「ここなら満足してくれるでしょ?約束、果たしたわよ。」
「やく そく ???」
「あら… まさか、日向君。覚えてないとか言っちゃうの??」



*****************************************



それは六本木のNホテルで二人が飲んだ夜のこと。

「日向君、今日誕生日じゃなかった?」
小泉にそう言われると、日向は本当に今思い出したというように答えた。
「…え?あー。ああ。そうでしたね…」
忘れてました、と続けると、小泉は苦笑いをした。
「いいの?こんなところにいて。」
「っつか、呼び出したのはそっちじゃないですか。」
「ビジネスの話だもの、仕方ないじゃない。
 でも、それも断るくらいのお相手はいないの?日向君。」
「ご存じの通りいませんよ」
「彼女の一人や二人や三人や四人、いてもいい色男なのにねえ。」
小泉がため息交じりにそう言うと、日向は笑いながらグラスに残っていたワインを飲み干した。
その様子に違和感を感じたのか、小泉は日向に尋ねる。
「何かあったの?」
言いながら、空いたグラスに再び高そうなワインを注ぐ。
日向はそれを一気に煽った。
「あら。いい飲みっぷりv」
「…… はい」
イタダキマス、と、また注がれたワインを飲んで。

しばらくすると日向は、はああああああ〜 と大きなため息をついて言った。
「小泉さーん。俺の悩み、聞いてくれますぅ?」
「もちろん。」
「俺ぇ… 今松山と一緒に住んでるんすけどぉ」
「松山って、松山光君のこと?」
「そうっす」
「あらまあ。そういう仲だったの。日向君てそっちの人?」
「そっちって、どっちでしょう〜?」
小泉は小さくため息をついて、ま、いいわ、と話を続けた。
「それで?」
「でも、松山が出てくとか言い出してましてぇ」
「痴話喧嘩ってやつね。」
「俺は出て行って欲しくないわけで」
「謝ればいいじゃないの。」
「うん?」
日向は小泉の言葉に動きを止める。
「ああ、いや。喧嘩とかではなく… なんつーか、こう、便宜上の問題とゆーかなんとゆーか」
「そうね。代表選手二人が同棲となっては、スキャンダルにもほどがあるわ。
 日向君、もうちょっと自分がどういう立場にあるか考えないと。」
「でも俺はやっぱり一緒に住みたいのであってぇ」
「…そうなの。つまりは…周りに絶対バレないような、二人の愛の巣が欲しいと。そういうわけね。」
「……ほい?」
ふむ…としばらく逡巡する。
これから代表を引っ張っていくであろう二人が同棲する仲というのはかなりマズイ。
だが、元々サッカーで繋がっている二人を引き離して、やる気をなくされたら元も子もない。
それにだいたい、愛し合っている二人を引き裂くなんて!!
「…わかったわ。私が何とかしてあげる。
 私にとって日向君は弟みたいなものだから… 幸せを願うのは当然よ。」
弟…?え?息子でなくて??と思ったが、例え酔っていてもそこは口にしない偉い日向である。
「あなた達にピッタリな、素敵な愛の巣を提供してあげる。
 そのかわり、その分しっかり働いて返して頂きますからそのつもりで。」
「…はい。ありがとー ございます。さっすが小泉さん…  俺、頑張りま   すぅ…  」
「?日向君?」

そして日向は夢の中…



*****************************************



「………」
俺も松山も、漫画みてーにぽかんと口を開いたまま固まってしまった。
「ま、覚えていなくてもいいわ。とにかく、素敵な愛の巣を見つけてあげたんだから、感謝なさい♪」
さ、ちょっと付いてきて〜vvvと、うきうきで小泉さんは部屋の中を案内し始めた。
俺は何が何やら… でも強制引っ越しされてしまった手前、ここに住むしかないのか?とか思いながら
後ろをついて行くしかなく。
「で、ここからよvvこ・こ・か・らvvv 松山君もちょっと来て来て〜っ」
「え?は、はい」
「ここの引き戸ね。押し入れか何かだと思うでしょ?ところがー」
小泉さんが引き戸を開ける。
するとそこには
「じゃじゃーんvv階段になってるのよ〜っ」
上へと続く階段が。
小泉さんが上がっていく後ろを付いて行く。
そして上がり切ったところにはまた戸があって。
で、またそこを開けると…
「はい。こっちが松山君ちvv」
「は?!え?!!!」
なんと上にはもう一部屋…
って、俺今、某劇的リフォーム番組のナレーションみたいになってっけど?!
「下の部屋ほど広くはないけど、一応水回りも一通り揃ってるから。
 こっちはこっちで玄関があるから、黙っていれば下と繋がってるだなんて気付かないでしょ?
 しかも10階まではオフィスフロアで、11階と12階だけが居住フロアになってるの。
 だから外から見たらオフィスビルにしか見えないわけ。
 ね。ナイス物件だと思わない〜?」
「あ、は、はい。」
松山はとりあえず頷いてみせる。
「ちなみにうちの事務所も、ここの5階に越してきたから。
 日向君はもちろん、松山君にもガッツリ働いて頂きますからそのつもりで。
 そのかわり、家賃も光熱費もうちがもつわ。いいわね?」
松山の返事はもちろんのこと、俺の話も聞く隙すら与えられず、
小泉さんは上機嫌に「じゃあね〜vvv」と去って行ってしまった。
小泉さんの後ろに立っていた里中さんも一礼し立ち去ろうとして、思い出したように足を止め振り向く。
「ここ、もう電気もガスも水道も使えますから。
 それから松山さん。業者に引っ越しを頼まれるようでしたら、日向さん経由で私にご連絡ください。」
失礼します、と言って、里中さんも行ってしまった。



残されたのは、俺と松山…

まさか
こんなことになっているだなんて。
「……」
松山は、どう、思っているんだろう…
突然『松山君の部屋』と言われたこの部屋を、松山はぐるりと見渡した。
「松山…」
「あのさあ、日向」
「お、おう。」
「とりあえず、一回落ち着こうぜ。下のリビングに戻ろ。」


(続く。)

諸々タネ明かし終了。
すみません… この回で終わる予定が終わりませんでした。
しばらく放置していたせいで、当初書こうと思っていたことと変わってしまって;;
次で終わるはず!!

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