「じゃ、始めるよ。」
三杉の一言で、みんながグラウンドに散っていく。
プラクティスユニフォームの上から赤、白それぞれのチームのゼッケンをつけている。
昨日ミーティングで決めた通りの紅白戦が始まろうとしていた。
(・・・・・むちゃくちゃ眠ぃ・・・)
ヤバい。これは本気でヤバい・・・。
日向はとんでもなく寝不足であった。
言うまでもなく、原因はアレである・・・。
まずいことに、日向はさらに先のことまで考察してしまったのだった。
『しかもあれだけ犬猿の仲だっつーのに、あの日向さんに恋してるらしい。』
と、幼馴染の健ちゃんは言った。
『へえ。それは僕も初耳だ。』
と、三杉先生はさらりとのたまわった。
特に否定することもなく。
・・・・・・しろよ、否定・・・・
俺と松山だぞ?!お前が散々手を焼いている、俺と松山だぞ?!!!
『いやいや、それはあり得ないよ。何をバカなことを言ってるんだい?このかませ犬がぁ!!!』
っくらいのことを言えよ!三杉!!!(後半は日向さんの個人的感情が露わになっております・・・失礼。)
松山が実は女・・・という事を、自分なりに納得できる理由付けができて(?)
ようやく受け入れられたのも束の間、その先はもっと頭を悩ませる会話で。
(松山が、俺に恋をしている、だって・・・?)
あの松山が?この俺に???
大鼾をかきながら眠る早田に背を向けて、日向は思わずため息をつかずにはいられない。
(じゃあ、なんだ?松山は俺のことが好きだから、あんな風にからんでくるとでも言うのか?)
自分も男だ。
小学生の頃は好きな女の子につい意地悪をしてしまうタイプだった。
そういう気持ちはわからなくはない。
目を閉じると、怒った松山の顔が浮かんできた。
(俺だって、別に嫌いってわけじゃねえんだ・・・)
と、日向は思う。
しょっちゅう喧嘩はしているけど、松山のことは認めているし・・・
むしろ、チームの中でも特に信頼を寄せている相手・・・だと思う。
おそらくそれは、自惚れでもなんでもなく、松山も同じ事を思ってくれていると思うわけで。
「・・・・・・・・」
試しに日向は考えてみることにした。
松山が女だとして、自分は松山の気持ちを受け入れられるかどうか・・・・
奴はサッカーをこよなく愛している。
しかも上手い。
顔は・・・目が大きくて少しつり上がっていて、割とかわいいかもしれない。
背は自分よりも少し低め。細いと思ったことはないけど、まあ細い方か?
みんなに好かれるイイ奴。これは絶対的だ。
自分とは喧嘩はするけど、なんというか、すごく深いところではちゃんと繋がり合っていて、本当はお互い信頼できる相手・・・・
って・・・ どストライクに俺好み?!!!!
「うわあああ!!!!」
目を閉じたまま、うつらうつらと考えていたから、思わず大声をあげてしまった。
後ろを振り返ると早田がむにゃむにゃ何か言ったが、そのまままた深い眠りの中に落ちたようだ。
(ヤバい。ヤバい。ヤバいです。神様っ・・・!!!)
ドキドキドキドキドキ・・・・
それきり日向は眠れなくなってしまい、気づけば窓の外はすっかり明るくなっていたのだった。
日向の寝不足なんかは無視されたまま、紅白戦は順調に進んでいた。
真夏の日差しが容赦なく照りつける。
自分ではいけるだろうと踏んでいたのに、思った以上に身体はついていかない。
同点のまま前半戦も終了するかと思われたその時、日向属する赤組にチャンスが訪れた。
「日向ぁ!!!」
声の主は、松山だった。
(・・・・松山・・・)
振り返った瞬間、太陽の光が突き刺されたんじゃないかと思うほど強烈に目の中に入ってきた。
脳ミソがぐらりと揺れる。
次の瞬間。
「日向?!!!」
イーグルショット並みの強烈なパスボールが日向の顔面に命中。
日向の意識は遠いお空に吹っ飛んでいった。
(続く。)