「はいはい、どちらさまぁ?」
オカンかお前は・・・
というツッコミを入れたくなるような抜けた声でドアを開いた反町の目の前に立っていたのは
「・・・・今、いいか?」
「おあ。噂の松山クンじゃーん?」
「何の噂だよ。」
そう。本日の話題の人、松山光だった。
「なんだかわからんけど気味悪いってゆー噂の。」
「ケンカ売ってんのか?」
「俺が松山に?やだん。とんでもない。」
カラカラと笑いながら、反町は松山を部屋に招き入れる。
「新田は?」
「風呂。」
ああ、そう・・・と言いながら、松山は勉強机の椅子に腰掛けた。
合宿所の部屋はだいたいどこも同じで、二つのベッドと勉強机が狭い部屋にぎゅうぎゅう詰まっている。
ふと机の上に目線を移すと、英語の教科書と参考書と、ビッシリ書き込まれたノートがあった。
「うわ。なんかすげーのな。」
松山はノートを取り上げまじまじと見ると反町に言った。
反町はもう一方の、今回同室の新田が使っている方の椅子に腰掛ける。
「これって宿題?」
「そ。うちって一応進学校だからさ〜。
俺とか若島津は、日向さんみたいにサッカー推薦で入ったわけじゃないから、手ぇ抜けないんだよね。」
これでも一応優等生で通ってるんだぜ?と、腰に手を当ててわざとらしくふんぞり返ってみせる。
何事においても器用な反町のことだ。
嘘ではないのだろうと松山は思った。

「で?何か御用ですか?」
「え、ああ・・・」
あーとかうーとか言いながら、松山はしばらく一人でもんどりうって、ようやく話す態勢に入った。
「実は、折り入って相談が。」
「・・・・そうだん?」
普段なら「なになに??」と、あからさまに楽しげな感じで食いついてくるはずの反町も、
今日の松山から相談なんぞ受けるのはさすがにただじゃ済まないというか、
巻き込まれたくもない事にぐるんぐるんに巻き込まれそうな予感が・・・。
思わず素で嫌そうな顔をしてしまった。
「なんだよっ!なんか、すげー嫌そうな顔してないか?!!」
いやいや、嫌だろう誰だって・・・と喉のところまで出かかったのを飲み込んで、反町は無理くり笑顔を作ってみせた。
「そんなことないよ。まあ、話してみたまえ。」
「三杉の真似すんな。」
フー、とひとつ大きく深呼吸して、松山はあらためて反町を見据える。
「反町って、告白されたこと、あるか?」
「へ?」
そんなこと???と、かなりの覚悟を決めたつもりだったので気の抜けた声が出てしまった。
K−1ファイターに猫パンチ喰らった気分だ・・・とかくだらない事を思いながら、
そういう話なら聞いちゃうよ〜vvとばかりに先程とは打って変わってウキウキ気分で身を乗り出す。

「なになに?誰に告られちゃったのさ?松山っっ」
「っ/// そそそそそんなこと言ってないだろ!!」
顔を真っ赤にして怒る松山はそれだけで「はい、そうです。」と言っているようなものだ。
「お前が告白されたことがあるかどうかを聞いてんだ!!」
「はいはい、わかりましたよ。」
にやにやしながら反町は答える。
顔が真っ赤なままの松山は、むむむーと口をへの字にした。
「そりゃあるさ。これでも俺、モテるんだぜ?」
悔しい(?)が、そうだと思ったから聞きに来たんだ・・・
「そういう時って、やっぱり、ちゃんと返事を返さなくちゃいけない・・・もん?」
「あったりまえじゃん。」
少々怒り口調で反町は言った。
「なに。松山はお返事もろくに返さずに逃げるつもりだったわけ?」
「そ、そういうわけじゃ・・・」
「そーゆー男はサイテーだぜ?」
「う。」
サイテー サイテー
サイテー
「で?その子のことは、どう思ってるわけ?」
「ど、どうって・・・」
「好きなのか、嫌いなのか、友達としか思ってないのか。」
「・・・・・・・・・・・と、友達・・・  だと思う・・・」
「じゃあさ、その友達の中でも、好きな方か苦手な方か?」
こういう話はお手の物、とばかりに反町にたたみかけられ、初心者松山は何が何やらあわあわしながらも正直に答えた。
結局反町に根掘り葉掘り聞かれちゃっていることを本人は気づいていない。
「・・・・・・・・・・苦手・・・とかじゃない気がするけど・・・。好きかどうかはよくわかんねえ。あ、でも」
「でも?」
「他の奴よりはたぶん信頼してる。あと・・・悔しいけど、憧れてる部分も、ある。」
「ふーん・・・」
反町は少し考えて、言葉を続けた。
「それは、好きなんじゃないの?」
「え?!!そ、そうなのか?!!」
頭の上からどでかい石でも落とされたような衝撃・・・
好きなのか?!それって好きってことなのかあああ?!!
松山の脳内は自問を繰り返した。
「っつかさー。とりあえず付き合っちゃえば?」
「えええ?!!とりあえず付き合っちゃうのか?!!」
「ほら、付き合ってみてわかることだってあるしさあ。
別にそれで将来決まっちゃうわけじゃないんだから、ダメなら別れればいいんだし〜・・・って、聞いてる???」

聞いていなかった。
松山はまるで聞いていなかった。
両手で頭を抱え、ぶつぶつと「俺とあいつが付き合っちゃうのか・・・?」と呟いている。
頭の上からプシューっと音を立てて白い煙が出ているようだった。
「おーい。まつやまぁ〜」
「・・・・おう。」
「大丈夫?」
「・・・・おう。」
「ま、とにかく返事はちゃんとしてあげなよ。」
「そうだな。それはそうだよな。」
自分自身を納得させるように、松山は「うんうん。」と数回頷いた。
「さ、さんきゅー。反町・・・」
「がんばってね〜vv今度紹介してね〜vv」
立ち上がると、フラフラしながら部屋のドアを開けた。
と、ちょうど新田が風呂から戻ってきたところでぶつかってしまった。
「っと・・・ わ!!すみません!松山さん!!」
「おう・・・」
「???松山さん?」
「おやすみ・・・」
「あ、はい。おやすみなさい・・・」
心ここにあらず・・・な松山の背中を見送る。
相変わらず足元はおぼつかない様子だ。

「・・・どしたんすか?松山さん。」
髪を拭きながら新田は反町に尋ねる。
「なんか、告白されたらしいよ〜。」
「マジっすか?!!」
特に口止めされたわけでもなし、反町はあっさり言ってしまった。(いいのか?)
新田は目をキラキラさせながら、先程まで松山が座っていた反町の勉強机の椅子に腰掛ける。
「誰にっすか?」
「さあ?聞いてもわかんないと思って聞かなかったけど。」
「でもあれっすよね。いつどこでなんでしょうね?」
「んあ?」
「だって、ここ一般人立ち入り禁止だし、一応合宿中は携帯禁止令出てるじゃないっすか。」
「・・・・・・・」
そういやそうだな・・・・と、反町は頭をかいた。
携帯禁止令が出ているとは言え、それを律儀に守っているものはほとんどいないだろう。
が、松山はどうだ?
そういうところはキッチリ守るタイプ・・・というか、日向同様携帯すら持っていなさそうな・・・・
わ・・・ 俺、実はとんでもねーこと知っちゃったカモ・・・???
「・・・・新田。この話、秘密な。」
「もちろんすよ。あ、なんすか?これ宿題っすか?すげー。反町さんて頭いいんすね!!」
幸い新田はこう見えて口は堅いし、この件に関してこれ以上掘り下げるつもりもないみたいだ。

反町は、やっぱり巻き込まれたくもないことに巻き込まれちゃったんじゃないか・・・?
と、思わず胸の前で十字を切った。


(続く)

そりそりです。
気分を変えて、今回は「まっつん」をやめて呼び捨ててみました。
まだ続きます。

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