それは平凡な一日の終わりに訪れた青天の霹靂・・・とでも言おうか。

(いやいや。それは言い過ぎだろ。)

若島津は自分にツッコミを入れてみた。
(それにしても、アホかうちのキャプテンは・・・)
大きくため息をつきながら「日向小次郎 早田誠」のプレートの付いたドアを叩いた。



「さて、これは何でしょう?」
「・・・ノート」
「何のノートかと聞いてるんです。」
若島津が目の前に突き出した一冊のノートは日向も見慣れたノートだった。
水色のキャンパスノートで、表紙の右下に「東邦学園高等学部」という金色の文字が入っている。
学校の購買で売られている指定のノートである。

若島津はひとつため息をつくと、日向が座っていない方・・・早田が使っていると思われる方の勉強机の椅子に腰掛けた。
早田の通う高校は宿題というものがないのか?と思うほど、机の上には何一つ置かれていない。
「回りくどいな。さっさと用件を言え。」
ギシっと椅子をきしませ、日向が偉そうにふんぞり返りながら言った。
「これは、さっきあんたが俺に持ってきたノート。」
「おう。サンキューな。」
「じゃなくって。俺があんたに貸したのは、コレじゃなくて表紙に『科学』って書いてあって、
しかも名前までキッチリ書いてあるノートなんです。」
「ん?あれ?そうだったか?」
わりぃわりぃ、と言いながら、日向は机の引き出しを開け捜し始めたところで・・・
「・・・・おい、そのノート、もしかして」
「もしかしてです。多分。」
「・・・・・・み、見たのか?」
「見ちゃいました。」
「・・・・・・・・・・」
「偉いですね。律儀にその日の練習の反省を書いてあるなんて。」
「お?!お、おう。」
ほっとしました、と言わんばかりの表情の緩み具合。
だが幼馴染は間髪入れずに爆弾を落とした。
「間間になんつー妄想をしとるんですか。あんたは。」
「?!」
顔面蒼白・・・・
かと思いきや、日向は一転ものっすごい真剣な表情で若島津の手をがしっと握った。
「ぎゃっ!なななな、なんですか?!」
「いつお前に相談しようかと思っていたんだ!!!」
「なななな何をですか?!!っつか、相談とか気色悪い発言しないでください!!」
若島津は腕にブツブツと鳥肌が立つのを感じながら、思わず日向の手を振り払った。
「お前は知っていたんだろう?」
「は?」
「だから、松山のことだ。」
日向は机の上のノートをパラパラとめくり、バンっとあるページを叩いた。。
そこには練習の反省日記の合間に、松山女説についての考察が書いてあった。
「奴は女で、しかも俺のことが好きなんだってな・・・」
「えええ?!!」
「色々考えたんだが、俺も奴が好きみたいなんだ。」
「はああ?!!」
「それで今日なりゆきで告白した。」
「・・・・・・・・」
顔面蒼白・・・は若島津の方だった。
爆弾を落としたつもりが返り討ちにあいまくりもいいところではないか・・・。
「あ、あの・・・日向・・・さん・・・?」
「いいかな?と思ってキスしようとしたら逃げられたんだが・・・」
「・・・・キス・・・ですか・・・?」
「嫌われたんだろうか?照れているだけなんだろうか?」
どう思う?と柄にもなく小首を傾げる我がキャプテンに、若島津は大いに脱力せざるを得なかった。

(続く。)

日向さんが果てしなくアホなんですけど・・・(汗)
みなさんもう忘れておられるかと思いますが、
前半で日向さんは松山女説についてノートに書いています。
そのノートなんです。

青天の霹靂7   top   青天の霹靂9